東京地方裁判所 平成10年(ワ)2478号 判決
原告 (旧商号 中央信用金庫)東京東信用金庫
右代表者代表理事 中澤靖
右訴訟代理人弁護士 大辻正寛
被告 富士パックス販売株式会社
右代表者代表取締役 森則昭
右訴訟代理人弁護士 塩見渉
主文
一 原告が、別紙目録記載の供託金の還付請求権を有することを確認する。
二 訴訟費用は被告の負担とする。
事実
第一当事者の求めた裁判
一 請求の趣旨
主文同旨
二 請求の趣旨に対する答弁
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
第二当事者の主張
一 請求原因
1 株式会社ワールドウエアー(以下「ワールドウエアー」という。)は、東都生活協同組合(以下「東都生協」という。)に対して、弁済期平成九年九月一〇日の日用雑貨品売掛代金債権六四万二七六円及び弁済期同年一〇月一〇日の日用雑貨品売掛代金債権七四八万八三八四円(以下「本件債権」という。)を有していた。
2 中央信用金庫(以下「中央信金」という。平成一一年一月四日、合併により原告に商号変更)は、ワールドウエアーから、同年八月二〇日、中央信用金庫のワールドウエアーに対する貸金の弁済を受けるため本件債権の譲渡を受けた。
3 ワールドウエアーは、東都生協に対し、同年八月二一日到達の内容証明郵便にて、右2の債権譲渡を通知した。
4 東都生協は、同年九月一一日到達の内容証明郵便にて、同生協に対するワールドウエアーの七二四万八〇一円の債権を被告に譲渡する旨の通知を受けた。
5 東都生協は、同年一〇月八日、債権者西島充雄、債務者ワールドウエアー、第三債務者同生協とする東京地方裁判所平成九年(ヨ)第五六九七号債権仮差押決定の送達を受けた。
6 東都生協は、同年一一月二七日、供託金額七二五万二一〇四円、被供託者を、中央信金、被告、又はワールドウエアーとして東京法務局に平成九年度金六九〇四八号をもって供託した。
よって、原告は、被告に対し、原告が右6の供託金還付請求権を有することの確認を求める。
二 請求原因に対する認否
1 請求原因1ないし3、5及び6は認める。
2 請求原因4のうち、東都生協が債権譲渡の通知を受けたことは認めるが、右通知が平成九年九月一一日に到達したことについては否認する。
三 抗弁
1 本件債権には、譲渡禁止特約が付されていた。
2 中央信金は、被告のメインバンクとして、被告の経営に深く関与し、取引関係の詳細を知りあるいは知り得べき立場にあったものであるから、本件債権の譲渡を受けた際、右1の特約を知っていたか、知らなかったことにつき重大な過失がある。
四 抗弁に対する認否
1 抗弁1は認める。
2 抗弁2は否認する。
理由
一1 請求原因1ないし3、5及び6の各事実は当事者間に争いがない。
2 同4のうち東都生協が債権譲渡の通知を受けたことは当事者間に争いがなく、成立に争いのない乙第一号証の1、2によれば、東都生協が債権譲渡の通知を受けたのは、平成九年八月二七日であることが認められる。
二1 抗弁1(譲渡禁止特約)の事実は当事者間に争いがない。
2 ところで、本件債権は、右のとおり譲渡禁止特約付き債権であるから、中央信金が右特約の存在を知り、又は重大な過失によりこれを知らないで本件債権の譲渡を受けたときは、その効力を生じないものというべきである。
3 そこで、右争いのない事実に成立に争いのない甲第三号証の1、2、第四号証の1、2、乙第二、第三号証、証人廣瀬多の証言及び弁論の全趣旨を総合すると、次の各事実が認められる。
(一) ワールドウエアーは、平成九年八月一五日、不渡手形を出し、事実上倒産した。
(二) 中央信金はワールドウエアーの創業以来、一五年以上にわたり、ワールドウエアーと同社のメインバンクとして取引を続けてきた。
(三) ワールドウエアーは、中央信金から融資を受ける際に、ワールドウエアーの東都生協に対する債権を中央信金に譲渡する準備をしたことがあった。
(四) 中央信金は、平成九年八月当時、ワールドウエアーに対し、約五八〇〇万円の債権を有していた。
(五) ワールドウエアーへの中央信金の貸金の回収に当たっていた同信金の従業員の真下孝雄(以下「真下」という。)は、ワールドウエアーと平成九年八月二〇日、右貸金の一部の弁済を受けるために本件債権を譲り受ける旨の債権譲渡契約を締結した。その際、中央信金の債権回収マニュアルに従って、債権譲渡の目的債権の内容を確認するために、ワールドウエアーに対して東都生協との契約書の閲覧を求めた。
(六) ワールドウエアーは、右債権譲渡の際、本件債権に譲渡禁止特約があることにつき何ら説明をしなかった。
(七) 真下は、ワールドウエアーに対し、本件債権の特約条項の内容を尋ねたが、その内容は不明であったし、ワールドウエアーも本件債権が譲渡禁止であるとの意識はなかった。
(八) 真下は、右の点につき、東都生協に対し問い合わせるまでの必要はないものと考えて、自ら問い合わせることはしなかった。
(九) ワールドウエアーは、被告に対し、平成九年八月二〇日、ワールドウエアーと東都生協との契約書をファックスで送信していた(被告は、同日、右ファックスを受信したことにより、二重に譲り受けた債権が譲渡禁止債権であることを知っていたことがうかがえる。)
4 右認定事実によれば、中央信金の従業員真下が、ワールドウエアーから東都生協に対する本件債権を譲り受けるに当たり、東都生協との契約書の閲覧を求めた当時、ワールドウエアーが右契約書を保持していたことが認められる。もっとも、甲第三号証の1、2には、真下が右契約書の呈示を受けていない旨の供述部分があるところ、これに沿う証人廣瀬の証言に照らし、ワールドウエアーが右契約書を保持していたことから直ちに右契約書を真下に呈示したということはできない。
そして、本件債権のような売掛金債権は、銀行預金等と異なって、譲渡・質入等が禁止されていることが必ずしも一般的とはいえないものであることからすると、真下は、本件債権が譲渡禁止債権であったことには善意であったものと認められる。
次に真下に重過失が認められるかどうかにつき検討する。
右認定事実によれば、真下は、債権回収のマニュアルに従って契約書の呈示を求めながら、これを呈示しないワールドウエアーに対し、債権譲渡の可否について積極的に確認の質問をすることをせず、東都生協に問い合わせることもしなかったのであるから、その調査が不十分なことにつき金融機関の従業員として過失があったものというべきである。
しかしながら、本件債権が、前記のように銀行預金等と異なり、一般的に譲渡禁止の特約がされる性質のものとはいえないこと、前記認定のとおりワールドウエアー自身も本件債権が譲渡禁止であるとの意識を有していなかったことからすると、ワールドウエアーの説明を信用して、真下が、この点につき東都生協に問い合わせなかったとしても、真下に重大な過失があったとまではいうことはできない。
よって、原告に重過失があるとする被告の抗弁は理由がない。
三 以上の次第で、原告の本訴請求は理由があるからこれを認容し、訴訟費用の負担につき民訴法六一条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判官 土屋文昭)
(別紙)
目録
供託の年月日 平成九年一一月二七日
供託所の表示 東京法務局
供託者の住所氏名 東京都世田谷区船橋六丁目一九番一二号
東都生活協同組合
代表者理事 宮村光重
被供託者の住所氏名 東京都墨田区押上二丁目六番三号
株式会社ワールドウエアー
又は
東京都墨田区両国四丁目三五番九号
中央信用金庫
又は
名古屋市昭和区恵方町一丁目二六番地
富士パックス販売株式会社
供託金額 金七、二五二、一〇四円
供託番号 平成九年度金第六九〇四八号